Archive

 2006年01月 

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦 

概ね論理的ではあるけれども、薀蓄を取り除いたとき残るものはあまり多くないミステリだと想います。
キャラや筆致はとても好みなのです。でも、実は「ミステリ」として本当に必要な部分を突き詰めるとあまり濃い本ではないと思います。
ただ最後は救われた気持ちになりました。あの終わり方が好きです。

スポンサーサイト

『伊藤真の民法入門 講義再現版』 伊藤真 

真っ白な状態からでも読みやすい民法の本。
民法をざっと概観できるので、とっかかりにはかなり良いと思います。
図が多く挿入されている上それらの使い方が巧みで、民法用語や観念をイメージで理解することができました。
講義の再現なので、喋り言葉で書かれていることも良かったです。

『御手洗潔の挨拶』 島田荘司 

御手洗シリーズ短編集。
全体的に心理描写・動機面がきちんと描かれています。切ないときはしっかり切ない…。(キュン)
益々御手洗という男に惹かれてしまったんですがどうしたらいいですか石岡君(笑)
トリックは「ギリシャの犬」以外は良かったと思います…(笑)
どのお話からも島田さんのシャーロックと音楽への愛がひしひしと伝わってくるようでした。
御手洗が時折シャーロックっぽい仕草をするんですよね。また話の流れや喋りの流れも同様に、シャーロックっぽさを感じます。
島田さんが持っているユニークなシャーロック観を探偵に昇華させたのが御手洗というキャラなんじゃないかとちょっと思ったのですがどうなのでしょう…。
音楽に関しては、この本に収録の『疾走する死者』に超顕著でした。
島田さんが描写する「音楽」の迫力には圧倒されます。「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」でも島田さんが作る音楽にぼろぼろ泣いたんですが、この本でもその部分は大事に大事にしたい、感動的な描写でした。
若木未生さんのグラスハートシリーズの「音楽」と近いものがある気がします。
御手洗・石岡コンビいいなぁ…。

『探偵ガリレオ』 東野圭吾 

直木賞オメデトウ東野さん「容疑者Xの献身」の探偵役、湯川助教授@ガリレオ探偵シリーズの第一作。短編集。
全てのお話に理系の話が絡んでくるので、理系に強い人には物凄い面白いと思います。
しかし理系さっぱりの私にも、説明が丁寧なので面白かったです。
むしろ、「こんなことが可能なのか」と文系だからこそめっちゃ驚きました。
理系トリック以外の言葉の仕掛けやどんでん返しもグー。
ただフェアプレー精神旺盛という印象の強い東野さんにしては、読者が推理できないことが前提になっているような気がしました。探偵しか持っていない推理の材料がかなり多いのでー。
あと佐野史郎の解説はあんまり上手くなかったです(苦笑)

『日本宰相列伝4 桂太郎』 川原次吉郎 

桂太郎さんの簡略伝記。やっぱりこのシリーズはもっとページ数を増やしてやってくれればよかったのにと思います。
エピソードや会話は多くなく、事実を桂傾斜の視線で述べている感じです。
なんかこう…頑張って褒めてるなぁ(笑)と私は思ってしまいました。
川原さんの場合、後半に至ってはやや批判的ですらある気がします。でも的を射ているように思えたので腹立たしくはありませんでした。
かなり内容的に薄いのがちょっと寂しかったですが、桂についておおまかなことを知りたいときにはいいかもしれません。
やっぱり桂って周りに振り回されてしまってる感じがするなー…。
自ら流れに乗ったのかもしれないのですが。
というか外から見ると上手く権力の流れに乗ってるように見えてたのに、桂側の目で見ると抵抗空しく流されているように見えたのです。
微妙なところですね。

『ペテロフ事件』 鮎川哲也 

鮎川先生の処女作。
戦前の満州が舞台で、実際の時刻表に基いたアリバイものです。
解説・後書きでもあったと思いますが、やっぱりクロフツの影響を感じます。でも鮎川さんの方がキャラが立っていて読みやすかったです。
どんでん返しの形は乱歩にも似ていると思います。
推理もどんでん返しも鮮やかでした。アレを実際の時刻表から見つけたというのは凄いですよね。

舞台が舞台なので冒頭に満州周辺の地図が付いているんですが、今まで見た中で多分一番あの遼東半島の地図はわかりやすいです!(感動どころが違うよアンタ)
アレでようやく旅順・大連・奉天・ハルビンの位置関係を理解しました(…)
舞台が上記四地名周辺な上、タイトルの通りロシア人が絡んでくるので、日露戦争の話もかなり出ました。あの辺の話を齧っていると、処々の描写や地名でにやりと来ると思います。
あと中国語・ロシア語を勉強している方には面白いかもしれません。作中に何度か出て来るのでー。
私はどちらもサッパリなので良く解りませんでした(ダメ子)
全く知らなかった満州という土地の警察制度・交通制度がリアルに描かれていて(鮎川さんは二十年近く満州にお住まいだったこともあって本当に繊細な描写がされています)、文化的な意味でも興味深かったです。

『おれは非情勤』 東野圭吾 

ジュブナイル。すみません普通にミステリ短編集かと思ってました…。
小学生向けの雑誌が初出のため、小学校を舞台に事件が起きていきます。主人公は非常勤講師。
読者層が小学生であっても手抜きがなく、ミステリとしての完成度はしっかりしています。
引かれた伏線がきちんと収束されて行くのはお流石でした。でもさらりと読めるのがいいですね。
結構世知辛い教訓(警句)なんかも台詞に交えられていて、夢を見させ過ぎない冷め具合が東野さんらしいな、と思いました。

『人間の生き方 ゲーテ ヘッセ ケストナーと共に』 高橋健二 

ドイツ文学を研究なさっている高橋さんによるエッセイ・小論集。
ゲーテとヘッセに関しては数ページに渡る経歴の説明もあるので、超簡略伝記とも言えそうです。
凄く二人の人間味溢れる、可愛い仕上がりで好きですv著者さんのゲーテとヘッセへの敬慕の強さを感じました。
ケストナーは表題にある割りに扱いが小さくて残念でした。ケストナー目当てだったので(笑)
むしろグリムの話の方が多かったような気がします。
しかし高橋さんが実際ヘッセやケストナーとはお知り合いということで、一次史料的な楽しさがありました。
色々なメディアで出したお話を集めているにも関わらず、話題やネタの被りが少ない(=ネタの使い回しをあまりしていない)辺り引き出しの豊富な方なんだな、と思いました。
戦前の一高のお話が近代スキーにはたまらんかったです…。

『コミュニケーション力』 齋藤孝 

コミュニケーションとは何か、そして人と上手に意志伝達するにはどうすればいいか、「話しやすい人」とはどんな人か、等等が話題です。
岩波新書の中では破格の読みやすさ。「戦後ドイツ」と比べたらもう…!(笑)
ただお話の内容に目新しいことはあんまり無いと思います。
『仕事のための12の基礎力』とほぼ同じ示唆がされていたので、常識的な「聞き上手、話し上手」論なのかな、と思いました。
それから齊藤さんご自身の体験や思い出が例示されることがかなり多いので、論というよりエッセイに近いのが微妙でした。
もう少し普遍的・一般的な形で話を展開して欲しかったです。

『就職お悩み相談室』 森永卓郎・清水建宇 

ウェブでやっていた相談内容を本にまとめたもののようです。
濃くって信頼できそうなのですが、非常に現実的かつ物言いが直球です。夢はほぼ無いです(笑)
歯に衣寄せない、嘘をつかない。だから将来に希望を持てなくなりそうにもなりますが(え)良薬は口に苦し。
初歩的・普遍的な問題からかなり個人的な問題まで、そして民間関係から公務員関係、ベンチャー企業関係までと幅広く質問があるので、聞いてみたかったことの一つや二つ必ず含まれているのではないでしょうか。
目次に質問内容が一覧されているので、確認してみることをお勧めしたいですv
各質問への回答内容を少し深めたデータが載っていたり、ホームページ・本の推薦などがあったりと、この本をきっかけに更に「就職」ということについて考えて行けそうです。

『大人のお勉強 日常生活に役立つ思考トレーニング』 西口正 

日常生活に使えそうな感じの算数問題がだーっと並んでいます。
ところにより算数っていうかなぞなぞです。意地悪問題です。
あとたまに日本語が足りなくて解説の意味や「何でその式になるねん」ていうのが解らない部分がありました。え、足りないのは私の頭?(わかってます)
ユニット分けがされていて1ユニットごとの問題数が1~3題なので多分計算の得意な方なら電車や隙間時間に手軽に取り組めるのだと思います。私は難しい計算が苦手なので、机で裏紙と筆記用具を用意してまるで問題集を解くかのような仰々しさで読みました。結構忘れてる…(…)
普段よく見る数字や名称についてのコラムはなかなか面白かったです。
禁門の変=蛤御門の変なのはどうしてか?というのが自分的ナンバーワン。
しかし津田沼が日本一の予備校激戦区だっていうのはどこまで本当なんだろう…。

『新・恐竜論 地球の忘れものを理解する本』 ヒサクニヒコ 

易しい恐竜の本。もうホント何も知らなくても解る基礎からのお話です。
恐竜学の起こりから、日本での発見、恐竜の姿についての考察、何故絶滅したのか? など。
最新の研究成果を踏まえた上で、ヒサさんなりの意見を書いて下さっています。
語り口と切り口が難しくない上、イラストや写真がふんだんに使われているので飽きません。
現代の動物に引きつけて理解しやすくしてくれるんですが、全く環境の違った恐竜全盛期のことが常に頭にきちんとあって、現代に引きつけ過ぎないバランス感覚があったと思います。
巻末の国内の恐竜関係の展示がある博物館リストがお役立ちですv

『最低で最高の本屋』 松浦弥太郎 

身一つから古本のセレクトショップを始めた松浦弥太郎さんのご本。「就職しないで生きる」がテーマのシリーズの一冊目。自伝とエッセイのあいのこのような内容です。
営業営業また営業、の古本業はとても大変そうなのですけど、「好きなこと」をなさって楽しく生きている様子が羨ましいほど伝わってきます。
そのためか、印象的なのが「咽越しの良さ」。
ふうわりとしながらも向上心に溢れた筆致が透明で綺麗で、快く読み下せました。
物凄く心を打つような文章があったというわけではないのですが、全体の優しいイメージがしっかりと残るのです。
なんというか、「まろやかで幸せになれて、胃に優しい」デザートのような一冊だと思いました。
人生甘く見すぎだと叱られそうですが、夢があって好きです。

『山河ありき 明治の武人宰相桂太郎の人生』 古川薫 

桂太郎さんの幼少からお亡くなりになるまでの小説。
どうしても時代が時代だから日露が大きく扱われて、その間桂の影が薄くなりがちだったのがちょっと寂しい。
日露になると児玉に視点が行くので、裏主人公児玉と言ってもいいかもしれません。
今まで私が見てきた桂は、原視点・児玉視点・尾崎視点・犬養視点…という感じだったので、本人の視点を見ていくのは新鮮でした。外から見た桂の意図と古川さん式桂の意図が全然違ったりして。
古川式桂は結構回りに振り回されてて可哀想です…。特に山県に(笑)
軍・政界どちらにも関係していた上長州閥の桂なので、登場メンバーの豪華さも嬉しかったポイント。
木戸さん伊藤井上らが出てくるかと思えば原西園寺杉山らも出てくると言う。
特筆人物はもちろん山田…!
チラリって感じだけども古川さんお流石です(笑)随所随所に山田が顔を出してくれる。大好きなので嬉しかったです。
あと女性関係がオクテで可愛かった。
割合史料に基いて、押さえるところは押さえてくれた印象です。
長州スキーさんには楽しめると思います。

『赤い鳥は館に帰る 有栖川有栖エッセイ集』 有栖川有栖 

新聞連載、文庫後書き、その他諸々の小文が集められています。
豊富な読書量・知識量と確固たるミステリ観に支えられた文の数々にめろっめろしました。もう大好きこの人。
「潮音風声」という連載群が非常に良かったです。上手い。
私のミステリ観は元々この方の小説で作られたようなものなので、ミステリ論になると「そうそうそうなんですよねー!」と首肯することしきりでした。
クイーンへの愛もとても嬉しい。
同様に関西への愛も溢れんばかりなので、大阪・クイーン(ミステリ)・出版関係に興味がある(愛がある)方には全力でおススメしたいと思います。
ところでこの本のお陰でまぁた読みたい本が増えてしまって困った(笑)
幾度かおススメミステリについての話もされているので。有栖川先生のミステリ観を基に育った者として(?)読んで面白くないはずが無いんでメモるわメモるわ…ッだからこの人のエッセイはあんまり読まないようにしてたんですけどね!(笑)(我慢できなかった…)

『陰獣』 江戸川乱歩 

ウッカリ「孤島の鬼」併録版を借りてしまった…既読やっちゅーのに。失敗。
でも「陰獣」、かなり面白かったです。不気味で官能的なミステリ。
末尾の論理的などんでん返しの連続にどきどきしました。
このどんでん返し群はある意味本格ミステリに対する揶揄とも取れると思います。
「どうしてそのロジックで100%犯人を特定できるのか」ということへの挑戦でありツッコミかなと。
また、乱歩自身の過去の作品をネタにしていたりもするので、名作どころを押さえてからだとより楽しく読めると思います。

『黄昏のトクガワ・ジャパン シーボルト親子の見た日本』 ヨーゼフ・クライナー 

シーボルト親子、特に父・フィリップにフォーカスした小論を集めた本。
シーボルトの日本研究、バイエルン州との関係、そのコレクションや著作など、豊富なテーマが扱われています。
書き手が国内外の研究者両方に渡っているので、視点の違いが面白いです。
日本の研究者さんは日本史的な観点から見るけれども外国の研究者さんは世界史的(ヨーロッパ史的)な観点から見る、など。
同様に書き手が複数に渡っていることから、シーボルト関連の情報に対する認識や解釈が違うことも、複眼的で良かったです。
シーボルトの研究内容ひとつ取っても評価が高かったり低かったりまちまちだったりします。

長男のアレクサンダーが明治初期の日本外交にかなり噛んでいるようで個人的に興味があります。

『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 島田荘司 

島 田 さ ん 最 高 … !!(絶叫)
おおおご馳走様でした…!とてもとても良い本格ミステリかつシャーロックのパスティーシュでございました。大好き。尊敬。しまださーんん!!(落ち着いて)
ええとええと。ロンドン留学中の夏目さんがとある悩みを相談に、シャーロックの元を訪れる、というロンドン舞台の本格ミステリです。
その頃のワトスン君と夏目さんの手記が後年になって発見されて、それを交互に並べた形の小説になっています。
先ずもうその手記が凄いんですね。
どちらも本人の手記にちゃんと似てるんです。
ワトスン君の分は、ああワトソンだな、と思う。夏目さんの方も、夏目さんらしいな、と思う。勿論島田さんテイストなので本物との違いはあるんですが、似てます。
特にワトスン君の方は上手いです。ワトスン(=ドイル)がホームズシリーズ中に頻繁に使う描写の仕方がきちんと出てくるんですよね。台詞も、仕草の書き方も、「そうそうワトソン君ってそういう風に書くんだよね…!」と頷くことしきりでした。
夏目さんが書いたことになっている部分は、私は彼の書き物を網羅した訳じゃないので本当に夏目さんを良く知っている方が読んだら色々とボロもあるのかもしれません。
でも私が読む限りでは漱石らしい文体になっていたと思います。そうそうこういう書き方するよねーと。
子規に言及してくれているのが特に嬉しかった。
夏目さんならあの頃のことを回想するなら書かないはず無いよね…ッ。
きちんと二人の交友を押さえてくれているらしい書き方に、胸が一杯になりました…。

そしてホームズの描かれ方も凄いです(笑)
一度島田さんは御手洗の口を借りてホームズに対して愛溢れるツッコミをしていますが、そういうユーモアのある形でホームズを愛している島田さんだからこそ書けたと言う感じ。
前半はもうホームズへのツッコミとおちょくりを小説化したと言っても過言ではないです。書いてるのが島田さんだから許せた内容です(笑)
ホームズシリーズを読み込んでるからこそ、そのおちょくりどころも的を射ていて大爆笑モンでした(笑)細かい芸が利いてます。読者もシャーロックを読んでいれば読んでいるほど笑えると思います(笑)
でも後半は、凄く凄くすごーーーくカッコいいホームズが見られてもう 大 満 足 。泣けるほど。
これも書いているのが島田さんだから出来たんだと思います。
ホームズのツッコミどころだけならずカッコいいところも知り尽くしているからこその原作に近いこの男前さ。
感激。

メイントリック&ロジックの方は、知識が無さ過ぎて正確なところどうなのかはわかりません。
でも私は良く出来ていたと思っていますv
どんでん返しと謎解きに継ぐ謎解き、そしてシャーロックらしい幕引きとその後の夏目さんに繋がってゆく幕引きと。嬉しくって好きで好きでたまらんでした。
久々の大ヒット。ありがとう島田さん…!(平伏)

『トム・ピーターズの経営破壊』 トム・ピーターズ 平野勇夫訳 

ピーターズさんが行った経営学セミナーを本にまとめたものです。大胆で熱くて、大変面白かったですv
ベンチャー系の起業家さんが好きそうな感じがします。
「今あるものは全て廃棄せよ」「常に革新せよ」「クレイジー=個性的なことが大事」「社員みんなに、起業家志望ってくらいの気持ちにさせる」「タテ型組織よりヨコ型組織」等等。
私には経済も経営もサッパリ解らないものの、ピーターズさんが言うような会社があったら就職したいと切に思いました。
最初は堅苦しい本だろうかと思って(分厚いこともあって)たのですが、ホーキングさんと同様この本も口語体で書かれている上、ウィットに富んでいるのです。ブラックユーモアに随分笑わされました(笑)
難しい言葉や理論も全く使われていません。
敢えて戸惑うとすれば海外の企業名を知らないことくらいです。
他の用語はきちんと説明があるか、辞書で引けば出て来るレベルだったので問題ありませんでした。
でも言っていることは大いに真面目でお役立ちだと思います。というよりは、役立ってくれて、こんな会社が増えたらいいのに、という私の願望かもしれません。(笑)
行間を詰めすぎない・導入とまとめは大きな字で書く・ある程度章分けされている・大事なところが別枠もしくは別ページで抜き出しされている・「まとめ」のテーブルが毎章ある、などレイアウトの工夫も読みやすさの助けになりました。
94年発行と少々古い本なので、PCが普及するなどして業務形態も益々変わってきているだろう現代にどこまで役立つかは私では解りません。しかし、そういう物質的な変化ではなく「理念」という部分でまだまだ得るところの多い本なのではないでしょうか。
とはいえ本当に、経営者・中間管理職さんではなくても読み物として充分楽しめます。

『ホーキング、未来を語る』 スティーヴン・ホーキング 佐藤勝彦訳 

天才学者が物理(主に宇宙関係)について噛み砕いて語った本。
この前に「ホーキング、宇宙を語る」という本があるらしいのですが、こちらより難しいようなので読んでいません。
アインシュタインから始まって、ブラックホールとは何か、宇宙はどうやって出来たのか、宇宙はこれからどうなるのか、最後は自論に関することまで話してくれています。
私は正真正銘根っから文系で、物理は今まで一度たりともやったことがありませんが、何となく理解できた気分になれました。そのくらい易しく書いてくれています。
頻繁にジョークも飛ぶし、SF映画に言及する、つまり喋り言葉の語り口なので抵抗無く読めました。
小難しい理論を説明するための例え話が上手い上、図説もたくさん付いているのが理解を助けてくれます。
ある学者さんの論を引くときにはコラムのような形でその人の生い立ちなどが簡単に(面白く)書いてあるのも良かったですv
もし前に書かれていた理論や言葉の意味を忘れても、巻末に語録が付いているのですぐに確認できます。便利。
そもそも結構繰り返し説明をしてくれているので、あまりつっかえずに済みました。
後半の(発売当時の)最新の理論やホーキングの自論になってくると徐々に理解し辛くなったのですが、それでも全体として面白い物理本でしたv

『ヴェニスに死す』 トーマス・マン 実吉捷郎訳 

ギリシャ風の美少年にほれ込んだ老作家を描いた作品。高名ですね。
並みの作家が書いたらつまらないものになってしまいかねないような「主人公の心理描写」や「写実的な風景描写」というのがとても上手で、むしろそこにこそ惹き付けられました。
何でもないような部分が物凄い吸引力を持っています。流石です。
特に少年に関する描写は老作家の陶酔と共に語られるので、美しく官能的でした。
短いのに濃い。
好きです。

『扉は閉ざされたまま』 石持浅海 

2006年「このミステリーがすごい!」第二位だった作品。
ミステリと言えば、「密室の扉を破る」ことから話が始まるけれど、「密室の扉が破られない」作品を作りたかったんだそうな。
その通り、密室は出てきますが扉は閉ざされたまま、犯人と探偵役との静かな戦いが始まります。
扉、そして窓をおいそれと破らせないための舞台設定は中々だったと思います。
でも探偵役の言うことが屁理屈に近いのがどうにも納得行きませんでした。
犯人の言い訳は、筋が通るように思ったのです。
それを否定する探偵役のキャラクターには、「本格」と名の付く作品なら論理で勝負してほしかった。感覚や性格という曖昧なものではなくて。
またこの探偵役のキャラクターが、打算的過ぎて私には好きになれませんでした。
それから、以下は少々ネタバレですが、(反転)彼女が「冷静で冷たい」女性で、伏見さんのことを「この男は優秀で、利用できそう」という計算の上で恋人に選ぼうとしてフラれたのなら、単なる会社員になってしまった伏見さんに対してどうしてあんなふうに執着し続けたのかが解らない。性格の矛盾(破綻)を感じました。

『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 

「インド」という要素が必ず絡んでくる、けれども大方がアメリカ舞台の短編集。(インド舞台のものもありました)
読むのに勇気が要りました。
というのは、現実的を上手く描いていたからです。
「物語」にありがちな、非現実的なまでの不幸やエログロがあるわけではない。だからと言って、非現実的なまでのハッピーエンドがあるわけでもない。
何とはなしの物悲しさや、そこはかとない幸福感が、むしろリアルです。でも人物造詣は特徴的(キャラクター的)なので面白い対比だと思います。
私はハッピーエンドではない創作には悲しさや空しさを感じるので思わず構えてしまうのです。(そういう創作が嫌いなんじゃなく、ただ気持ちが沈むと疲れるんで/笑)だからラヒリは必ずしもハッピーエンドを用意していない、と解ったときから、一編一編読み始めるときに変な覚悟が要りました。
整然と、淡々と、静謐とした筆致は割合好きです。

『幽霊たち』 ポール・オースター 柴田元幸訳 

ミステリ仕立てですがモダニズムな感触。
ミステリ「仕立て」というのは、主人公が探偵で、彼が依頼を受けるのが話の発端だからです。
しかし謎は深まるばかりで解決はしません。
起承転結が無い話は気持ち悪いと言う人には向かないと思います。
個人的には話の持つ雰囲気が好きで、怒らず(え)最後まで読めました。
不気味でスリリングで空虚で哲学的。割りにキャラクターの一人一人が個性的であるのも面白いところです。

『恋する手紙』 マドレーヌ・シャプサル編 平岡敦・松本百合子訳 

フランスの19~20世紀(or18~?)の有名人(主に作家)のラブレターを集めた本の日本語訳。
ナポレオンやサルトルなどが書いた手紙が読めます。
横書きに線の入った、便箋を意識したレイアウトに加えて、手紙の文末には本人のサインが直筆のまま入っていたりと、臨場感(え)に溢れています。
私はフランスの方には詳しくないんですが(^^; 手紙の前に各人について経歴や代表作などが簡単に紹介されているので、それでようやく「あの人か!」とピンと来た人も結構いました。
みんなテンションが高くて面白いです(笑)←笑うんか。
『若きウェルテルの悩み』ほどではないですが、近いものがあります…。
私だったらこんな手紙を頂いたら引きそうなんですが(…)
国の違いか時代の違いか感覚の違いか(笑)
ナポレオンはゲーテに結構ハマってたようなので、影響だったら面白いですね(笑)

気になった人物はジャン・コクトーとジャン・マレーそしてアルチュール・ランボーとポール・ヴェルレーヌ。
男同士のラブレター。熱いね! 興味津々だよ!(だまれ)

『異邦の騎士』 島田荘司 

御手洗さんが若い頃のお話。島田さんの処女作でもあるようです。
初っ端から状況設定がミステリアスで掴みはオッケー。そのまま目くるめく謎の提示謎の提示謎の提示で、ぐいぐい引き込まれます。
結構具体的な土地名が出るので、都内の地理や電車に詳しい人にはより面白いんじゃないかと思います。
大掛かりなトリックには多分納得の行かない人もいるのではないかと思うんですが、この文章の、小説としての面白さが個人的には文句の無い免罪符でした。
もうコレを読んだら御手洗に惚れるしかないだろう!どんだけ男前なの潔!ごめんね前に叩いたことあるけどアンタはいい男でしたよ…!(愛)
ナイトな潔にめろめろです。

『容疑者Xの献身』 東野圭吾 

2006年「このミステリーがすごい!」で、2位と2倍以上の得票差をつけて1位にランクインした作品。
さすが東野さんだと思うのは、きちんと「本格」であることです。物凄く読者に対してフェアでした。
探偵役・湯川教授と読者が持つ情報にはほとんど差が無く、読者が推理をすること(そして的中させること)が可能な作品に仕上がってました。
その分人によってはオチ(トリック・ロジック)がバレてつまらないものになってしまう…かと思いきやそこが解ってもまだ上手い騙しが隠れていて楽しめるんですねこれが…!
犯人の心理の作り方(描き方)もお上手で、純粋な推理に心理を加えた味のある作品に仕上がってると思います。
もんの凄い名作、と言うわけではないのですが、ミステリ初心者でも楽しめるエンタテイメントです。

『最長不倒距離 スキー場殺人事件』 都筑道夫 

とある作家さんがお勧めにしていたので読んでみたのですが、出来はイマイチでした。
最終的に犯人を絞る過程に論理らしい論理が無くて、どうして最後に犯人を指摘できたのかが最後まで疑問だったのです。勘か?(笑)
ただ探偵役とそのアシスタントがツボだったんですよ…!(また来たよ…)
何事にもやる気のないただれた探偵(オイ)物部太郎と、そのアシスタント片岡直次郎。
働くのが嫌いでやや我侭な物部と仲良しかつ物部に対して遠慮の無い割りに敬語キャラの片岡。ト キ メ ク (ダメ子)
まあでもそんなトキメキだけを目当てに読んでも損なだけかなと思います…(笑)
作者の願望めいたもの、もしくは男性読者へのサービス(笑)が見え隠れする女性の描き方もあんまり好きじゃありませんでした。

『死神の精度』  伊坂幸太郎 

2006年「このミステリーがすごい!」にランクイン。死神を主人公に据えたオムニバス短編集。
「重苦しい事実こそ軽く陽気に書かれるべきだ」という伊坂節全開の、読んでいて気持ちいい一冊でした。
一つ一つのお話も確かに面白いけれども、「傑作!」と叫んでしまうようなものではないのです。
でも最後の「老女VS死神」(でしたっけ題…!既に図書館に返してしまったので/汗)が締めくくりをものっすごく鮮やかに決めてくれました。お見事。
「さすが伊坂さんだなぁ」から、「伊坂さんすげえ…!!」に一気に評価が跳ねました。(解り辛いよ)
これがあるから、この本が素晴らしい成立の仕方をしているんだと思います。あると無いとじゃ大違いです。
個々それぞれにしても、提示される謎とその解決がどれもユニークなので楽しめます。
普通のミステリの根幹を揺るがしかねないネタもあって笑えました(笑うんか)
また、伊坂さんの書く人間は綺麗で、私には安心できます。
このほっとする雰囲気もとても好きですv

『ゼルプの欺瞞』 ベルンハルト・シュリンク 平野卿子訳 

数少ないドイツ語圏ミステリ。
ドイツ・ミステリ大賞を受賞したそうですが、ミステリというよりは第三帝国とそれに従順してしまった世代への弾劾小説という色が濃いと思います。
本格ミステリとはとてもとても言えないです(笑)論理とか推理とかはありません。投げちゃってます。
一応主人公は私立探偵ですが、この私立探偵は元はナチス体制下で地方検事をしていたのです。
そして、(巻末の解説でもでも言及されてますが)著者は所謂「第二世代」「六十八年世代」の人です。この世代の人たちはナチスの世代=自分たちの親世代に対して、「過去を過去として流してしまおうとするな」「あのとき何をしたかを忘れるな」という風に詰め寄った世代らしいんですね(『戦後ドイツ』照)
つまりシュリンクは、ナチス体制の中に疑問を持たず所属していた「ゼルプ」という老人を親世代の一種の象徴として用意して、ナチスドイツを忘れさせないためにこの作品を書いたんだと思います。
シュリンクの別の有名本「朗読者」なんかもそうですが。
戦後の世相や、第一世代の思考の雰囲気を感じるにはいいかもしれません。割と日本のドイツ本はドイツを持ち上げる傾向がある感じがしますが、綺麗なだけじゃないドイツが見られます。
ミステリとしての期待はあんまりしないほうがいいです(笑)
しかし一番訳者さんに文句を言いたいのは、このシリーズの一冊目、「ゼルプの裁き」のネタバレが作中にあること…!(悔)
みんながみんな一冊目を読んでくるわけじゃないんだよー!(何)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。