『サンタクロースにインタビュー―大人のための子どもの話』 エーリヒ・ケストナー フランツ・ヨーゼフ・ゲールツ、ハンス・サルコヴィッツ編 和泉千穂子訳 

ちょっとブラックなショート・ショートが好きな方に一押しの一冊。
平易で解りやすい文章ではありますが、中身はシニカルでときに辛辣。ナチの本格的な台頭前夜にかかる時勢や、アンモラルなあれこれを、鋭く詩と短編にしておられます。
読後の後味が苦かったりすっぱかったりするものが多く、「児童文学」のケストナーというイメージをお持ちの方は意外と感じられるかもしれません。
しかし元々ケストナーは時事風刺やブラックユーモアが最高に上手なジャーナリストで詩人で作家、言葉による創作ならほぼなんでも幅広くこなしてしまう方です。
日本では児童文学が有名ですが、その一面だけにしかスポットが当たらないのはちょっと勿体無い気がしていました。
こういった「クールな」ケストナーも徐々に紹介されてきているのが嬉しいです。
ミステリ好き的に嬉しい、謎+意外な結末で構成される作品もいくつか収録されています。
表題作などまさにその代表例。サンタさんとの一夜の邂逅をご覧あれ。

後の作品(『ファービアン』や『五月三十五日』など)の種と思われる話もあり、ケストナー・ファンにはその点でも楽しめます。

サンタクロースにインタビューサンタクロースにインタビュー
(2007/11/22)
エーリヒ ケストナー

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『羊たちの沈黙』 トマス・ハリス 菊池光訳 

女性の皮を剥いで殺す、連続殺人犯が捕まらない――FBIのクローフォドは頭を悩ませていた。その元教え子・クラリスは、元精神科医であり殺人犯である獄中のハンニバル・レクター博士を別件で訪ねる。レクター博士は皮剥ぎの事件について何ごとかを知っているようで……
かの有名なサイコ・サスペンス。
ミステリ作家によって紹介されることも多いことから、私は勝手にレクター博士を安楽椅子探偵とする推理ものかと勘違いしておりました。確かにミステリっぽい構造は持っていますが、純粋にサスペンスなのですね。
なぜ、どうして、よりも、とにかくその残酷な不気味さを楽しむ小説だと感じました。
小説の筋立ては文句なく面白いので、読んでみてくださいとだけ申し上げたいと思います。
ただ訳が! どうしても好きになれませんでした。
例えば「彼が自分の母親をあんなふうに言ったのは」母親とは彼のなのか自分のなのか?
指示語があいまいなまま訳してあったり、専門用語や略語が説明無しで直訳されていて意味がとれなかったり。読者に優しくありません。
お話が面白くて好みだった分残念でした。

羊たちの沈黙羊たちの沈黙
(1989/09)
菊池 光、トマス ハリス 他

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『影』 アンデルセン 

語り口は優しいですが、童話というよりも訓話や幻想小説に近いと思います。
「影」に、心を許した隙に乗っ取られてしまう男の話。
アイデンティティに関する不安やその喪失という普遍的なテーマが訥々と語られてゆきます。

影 (あなたの知らないアンデルセン)影 (あなたの知らないアンデルセン)
(2004/12)
ジョン シェリー、ハンス・クリスチャン アンデルセン 他

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『ぬしさまへ』 畠中恵 

お江戸の妖怪ファンタジー小説第二作。短編集。
小さな謎と、長崎屋の舞台、という大枠は同じながら構成が様々に工夫されていて飽きさせません。
ほのぼのとした空気も健在。
ときどきぞくりと恐くなるようなシーンもあります。
過去話がいくつかあったのが個人的に嬉しかったです。

ぬしさまへ (新潮文庫) ぬしさまへ (新潮文庫)
畠中 恵 (2005/11/26)
新潮社

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『ファウスト』 ゲーテ /高橋義孝訳 

戯曲の第一部。
世界の全てを知ろうとしたファウストを悪魔・メフィストフェレスが誘惑してゆくお話。
ファウストという作品に乗せて論敵を糾弾するゲーテを面白く感じました(笑)
ゲーテ様は自虐的なのに論敵には厳しいですよね…!(笑)
第二部も楽しみです。

ファウスト〈第一部〉 (岩波文庫) ファウスト〈第一部〉 (岩波文庫)
ゲーテ (1958/01)
岩波書店

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『アルケミスト―夢を旅した少年』 パウロ・コエーリョ 山川紘矢+山川亜希子訳  

ベドウィンに砂漠に前兆という言葉にムスリム的なものを感じたのですが、主人公はクリスチャン。
羊たちと今までの暮らしを捨て、旅に出るところから話は始まります。
教訓(人生訓)と哲学で構成された小説で寓話的で、どちらかというとストーリーよりも思想を味わうための作品なのかな、と感じました。
描写のそこここに警句が含まれています。
深みのある内容なので、再読してじっくりと味わってみたいです。

アルケミスト―夢を旅した少年 アルケミスト―夢を旅した少年
パウロ コエーリョ (1994/11)
地湧社

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『ファービアン あるモラリストの物語』 E・ケストナー 小松太郎訳 

巻末にケストナーによる論評と、発表当時に削除された章の訳(丘沢静也先生訳)と解説つき。
主人公のファービアンが、ナチス台頭を控えたベルリンで翻弄される長編小説。
当時のベルリンの狂いがユーモラスに、揶揄的に、悲劇的に、描き出されています。
ケストナーが表そうとした(と思われる)そのテーマは見事に伝わってくるのですが、それがために「モラリスト」たるファービアンが幸福になれない皮肉が切なかったです。ちょっと漱石の「猫」っぽいでしょうか。
時代の流れというものの恐ろしさについて考えさせられました。

ファービアン―あるモラリストの物語 (1973年) / 小松 太郎